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Mobile Homes モービルホーム

カナダ映画 (2017)

アメリカに多いモービルホーム(トレーラーハウス)を中心に据えたロードムービー。ただし、製作はカナダとフランス。撮影はナイアガラの滝周辺。元になったのは、同じ監督Vladimir de Fontenayが2013年に作った長さ14分のショートムービー。登場人物は、木偶の坊の男と、お腹の大きい女性と、10歳くらいの少年。少年(Ash Devens)が最初にモービルホームに侵入するシーン(1枚目の写真)と、女性と少年が男から逃げて隠れたモービルホームが動き出して窓の外を眺めるシーン(2枚目の写真)は、ロングバージョンのこの映画そっくり〔ショートムービーは、ここがラストシーン/この方が希望があって終わり方としては優れている〕。少年のアップは、暗い浴室のシーンしかなくて粒子が粗いが(3枚目の写真)、ロングバージョンのフランク・ウルトン(Frank Oulton)のような可愛さはなく、端正な美少年。ところで、この作品は、アテネ国際映画祭で観客が選ぶ最優秀作品に選らばれた経緯はあるが、IMDbは6.0、Rotten Tomatoesは58%と、何れも積極的に評価されていない。恐らく、映画の前半1/3のパートで、何が起きているか非常に分かりにくい脚本になっていることと、8歳の少年に麻薬を売らせる行為が映画の中とはいえ「よくない」と判断されたからであろう。映画の後半、トーンが変わってしまい、その結果が最悪なのも心証を悪くしているのかも。
  
  
  

好きな男のバンに乗りながら、違法な商売をして生活しているアリは、息子のボーンをしばらく施設に預けようとするが、「お役所仕事」の壁にぶつかってしまう。8歳のボーンは、ふらりと勝手に出て行っては母を心配させる。そんな幼いボーンに、アリを支配している彼氏のエヴァンは、いろいろな悪事をさせる。人の家に忍びこんで不在を確かめたり、街道沿い安食堂での『食い逃げ』の囮(おとり)にしたり、違法な賭け闘鶏の戦い手にしたり、最悪なのは麻薬を売らせたり。この男は、ヤバいことはすべてアリかボーンの母子にさせ、自分では何もしない卑怯者だ。そんなエヴァンに愛想が尽きたアリは、ボーンが見つけたモービルホームに2人で逃げ込む。ところが、朝、目が覚めると、そのモービルホームは、本当に動いていた。つまり、目的地に向かってトレーラーで運ばれていく途中だった。「家」が目的地に着いた時、モービルホーム業者ロバートは、不法侵入のアリに二度と近づくなと警告するが、一緒にいたボーンの可愛らしさに免じ、嵐で不通になっているバスが動くまで泊めてやる。ロバートはアリに仕事を手伝わせてみるが、アリは熱心に仕事をこなし、これまでの荒んだ生活とは違った雰囲気が好きになる。ボーンも初めて友だちができる。しかし、そこにエヴァンが現れる。アリは、最初こそ拒絶反応を示すが、すぐに昔のような関係に戻ってしまう。そして、エヴァンの口車に乗せられ モービルホームをトレーラーごと盗む。だが、ロバートの追跡を振り切ろうと 無茶な運転をした結果、トレーラーは湖に落ちてしまう。何もかも失ったアリは、ボーンの将来を考え、母としての役割を捨てようとする。

フランク・ウルトンは、8歳という設定になっているが、ほぼ年齢通りであろう。逆境に育ちながらすごく素直な性格の少年を演じるには最適のキャスティングで、おどけた笑顔が暗い映画に唯一明るさを与えてくれる。映画初出演で、主演の3人のうちの1人を 印象深く演じている。


あらすじ

映画の冒頭、「そこでお待ちください。長くはかかりません」という女性の言葉とともに、置いてあったおもちゃに触ってみる8歳の少年が映る(1枚目の写真)。少年の名はボーン(Bone)。あまりいい意味のない変わった名前だ。「これに記入して下さい」。20代後半の女性がバインダーに挟んだ紙に書き始める。彼女の名前はアリ(Ali)。これも、イスラムの男子名なので、変わっている。そのうち、ボーンが母の横に座り鼻を掻き始める。母は、「掻けば掻くほど悪くなるのよ。叩きなさい」と注意する(2枚目の写真)。そして、「ここにいるのよ」と言って席を立つ。ボーンは盛んに頬を叩いている。母が入って行った部屋には、事務的な感じの中年の女性がいる。先ほど書いた紙を渡すと、「年齢が書いてませんね」「住所は?」と指摘される。「今は、ないわ」。「父親の名前は?」。「ボーイフレンドのエヴァンが養子に」。「法的保護者ですか?」。「いいえ。裁判所とかはぜんぜん」。「予防接種の記録は?」。「ないわ」。「児童保護サービスの登録ナンバーは?」。「それ、何?」。「登録されてないと、里親制度も養護施設も利用できませんよ。登録には、虐待か放棄が報告されていないと」。「ないわ。話したみたいに、一時的でいいの。1ヶ月くらい、あの子がくつろげればね。ずっとじゃなく」(3枚目の写真)。アリは、息子を一時的に預かってもらいたくて来たのだ。しかし、今のままでは資格はない。「助けてくれそうな家族はないの?」と訊かれただけ。がっかりしたアリは、早々に引き揚げる。受け付けの女性は、母を見て、「お子さん、出て行きましたよ」と告げる。アリ:「帰り道は知ってるわ」。そして、タイトルが入る。
  
  
  

タイトルが終わると、アリとエヴァンの真昼の激しいセックス・シーン。エヴァンは、「1時半までに行かないと」と言って途中でやめる。「ボーンを連れて来い」〔母は息子のことなど心配せず、セックスをしていたことになる。しかも、この後すぐ、場所はモーテルの1室だと分かる。ここが今日だけの「家」なので、ボーンが帰る場所はモーテルしかない〕。母は、部屋から出て捜しに行く。下には、エヴァンのバンが停めてある。周囲は雪で覆われている。母は、まずバンの後ろのドアを開けてみる。そして、モーテルの前の幹線道路まで雪を踏みしめて見に行くが、道路の両脇も雪でいっぱいで子供がいられそうな場所などない。母がバンに戻ると、エヴァンがバンの後部ドアを開けて要らなくなったダンボールなどを雪の上に捨てている。アリ:「どこにもいないわ」。エヴァン:「時間がほとんどないんだ」。エヴァンはアリを乗せると、ボーンのことなど放っておいて、すぐに車を出す(1枚目の写真、矢印は駐車場に捨てたゴミ)。向かった先は、緑色のシャッターのガレージ。エヴァンはそこに着くと、バンの後ろに積んであった電気掃除機の箱を2つ アリに運ばせる(2枚目の写真)〔エヴァンは、自分では何もしない〕。この「商売」について説明はゼロだが、恐らく、少し前に紹介した映画『Jeg er William(僕はウィリアム)』でやっていたような、盗難品を安く買ってきて売りつけるような内容の気がする〔エヴァンの犯罪者的な性格から〕。2軒目は、約束の時間に遅れたせいで相手はいなくなっていた。腹いせに、エヴァンはアリをその場に置きざりにして行ってしまう。アリがどうやってモーテルまで戻ったかは不明だが、帰り着くと、ボーンは駐車場で雪を蹴って遊んでいた(3枚目の写真)。その時、エヴァンもバンで到着する。
  
  
  

エヴァンは、ボーンが「クリスピー買ってきた?」と運転席から体を入れると、首をつかみ、「どこにいた?」と訊く。痛いので、ボーンは「放して」と頼むが、エヴァンは、「勝手にいなくなるな。お前のせいで、引渡しをミスったんだぞ。カネの回収には、バンを空にしなきゃならん。何度言えば分かる? 二度と言わせるな」と締め続ける(1枚目の写真)〔アリとのセックスで遅くなったくせに、責任を転嫁している〕。アリはそれを見ても止めないし、そもそも、自分が置き去りにされたことも責めない。次のシーンでいきなり雄鶏が出てくる〔あとで、違法な賭け闘鶏に使うと分かる〕。その夜、エヴァンはバンを一軒の農家の前に乗り付けると、ボーンに、「家に忍び込んで、誰もいないか見て来い」と命じる〔この男は、自分では何もしない〕。ドアに鍵がかかっていないので、ボーンは簡単に中に入り、暖炉に火を点ける。後から入って来たエヴァンは、「よくやった」と褒める(2枚目の写真)。そして、居間のイスをどけると、3人で寝転がって眠る(3枚目の写真)。
  
  
  

翌朝、エヴァンは納屋から雄鶏の餌を盗んでくる。こ映画の欠点は、「説明不足」が多すぎること。前の電気掃除機もそうだったが、この雄鶏も謎。前節でいきなり登場し、このあと、エヴァンはその雄鶏を、闘鶏用の刃(鉄の蹴爪)を付けて3000ドルで売ろうとする(1枚目の写真、矢印は雄鶏)〔相手は買ったはずなのに、その数日後の試合では、ボーンに雄鶏の「オーナー」として闘わせ、その後もずっと一緒にいる〕。逃げ出した雄鶏を追っていって捕まえたボーンは(2枚目の写真、矢印は雄鶏)、転んでしまい、顔に傷を負う〔その前に刃は外していたはずなので、なぜ傷を負ったのか良く分からない〕。エヴァンは、ボーンをバンまで連れて行き、傷口を針と糸で縫うが、麻酔ゼロなのですごく痛がる(3枚目の写真、矢印は細い糸)。
  
  
  

幹線道路沿いの食堂。ボーンがトイレに行っている間に、エヴァンは、「家を買うだけのカネを何とか貯めないと」と言い、ボーンの母であるアリに、「これからは、必要な時にボーンをどんどん使うぞ」と宣言する。そして、アリがトイレに立つと、さっそく、「『食い逃げ』って知ってるな?」とボーンに訊く。「俺と、お前のママは、バンで待ってる。ここで、20まで数えるんだ。いいな? 20になったら、周りを見て、誰にも見られてないか確かめろ。OKなら ゆっくり立ち上がり、通路に誰もいないことを確認する。ドアまで来たら、バンめがけて思い切り走れ。いいか。失敗したらムショ行きだぞ。ムショには入りたくないだろ」(1枚目の写真)。話が終わった頃、アリが戻ってくる。ボーンが母に、「『食い逃げ』?」と訊くと、アリはその危険さを容認し、ボーンにキスする。そして、2人は食堂を出て行く。ボーンは数字を数え始める(2枚目の写真)。ボーンは、2人がバンに乗ったのを見ると、まだ「12」だったが、立ち上がるとそのまま出口に向かい、ドアを出るとバンまで走り後部座席に乗り込む(3枚目の写真、矢印)。店側は気付かず、バンは全速で走り去る。
  
  
  

その日はモーテル。母と一緒に部屋に入ったボーンは、雄鶏を母の頭に乗せる(1枚目の写真)。母は、「今日は、部屋から出ちゃだめよ」と言い、エヴァンと出かける。その際、エヴァンは、「知らない奴には ドアを開けるんじゃないぞ」と注意する。しかし、昼間から1人というのは寂しい。雄鶏と一緒にベッドで寝たり、床に転がって羽をいじったりするが(2枚目の写真)、やがて、つまらなくなる。そこで、雄鶏を持ったまま 部屋から抜け出し〔ドアではなくテラスから〕、外に遊びに行く。少し先に行くと、モービルホームが並んでいた。ボーンは、立入禁止の柵の継ぎ目の隙間から敷地内に侵入すると、モービルホームの窓を開け、先に雄鶏を中に入れ、次いで自分も転がり込む(3枚目の写真)〔解説で紹介したショートムービーの1枚目の写真と対比(ただし、雄鶏はいない)〕。モービルホームの中には、いろいろな部屋があり、検分するだけでも面白いが、そのうち飽きて眠ってしまう。夕方になり、ボーンが寝ている窓の前で話し声がする〔ハウスを見に来たお客とオーナー〕。お客が帰ると、オーナーは鍵を開けてボーンが寝ているハウスに入って来る。その音で目が覚めたボーンは、素早く雄鶏をつかむと、窓を開けて逃げ出す。それに気付いたオーナーが窓から出るが、姿はどこにもない〔このオーナーが、今後重要な役を演じるロバート〕。一方、エヴァンとアリは食堂で話し合っている。「トニーがメールしてきたんだが、月の終わりまでに7000払ったら、その土地が俺たちのものになるとか。それからは、毎月1000だ」。それを聞いてアリはにっこりする。ボーンが無断外出したことは、バレなかった。
  
  
  

次も意味不明だが、エヴァンが、怪しげな男と話し、闘鶏に出場できるようお金を渡す場面がある。そして、夜、厚着で雄鶏を持ってきたボーンが、なぜかシャツ1枚になり、髪をマンバン〔後ろで束ねる〕にする(1枚目の写真)。そして、相手の雄鶏と向き合うと(2枚目の写真、矢印は互いの雄鶏)、同時に闘鶏場の中に放す。最初は互角だったが、最後はボーンの雄鶏が相手を倒して勝つ(3枚目の写真)。ボーンは、エヴァンに抱きかかえられたままお金を集める。
  
  
  

それが済むと、エヴァンはボーンをトイレに連れて行く。そして、麻薬の小袋入りの包みを渡し、「これを売ってこい。1つ60だ」と命じる(1枚目の写真、矢印の方向に包み)〔前にも書いたが、この卑劣な男は、罪になることは全部他人にやらせる〕。ボーンは小さな子供、どんどん売れるが、最後に会った男は、品質を確かめると言って味見させた挙句、40しか渡さない。ボーンが不足を指摘すると、「だからってどうする?」と脅す(2枚目の写真)。この時、4-5台のパトカーが乗りつけ、一斉摘発を始める。外で誘導係りをしていたアリからスマホで連絡を受けたエヴァンは逃げようとするが、捕まるのが怖いのでボーンを見捨てる。バンで待っていたアリが、心配して「ボーンはどこ?」と訊くと、「モーテルで落ち合る。ここから早くずらかるぞ」としか言わない。「あの子が捕まったら?」。「俺たち捕まったらムショに放り込まれるんだぞ。あいつは見つかりっこない。隠れるトコを教えといた。さあ、行くぞ」〔卑怯な上に臆病、さらに、嘘付き〕。母たるアリは、そんないい加減な言葉では騙されない。反対を押し切って息子を救いに行く〔エヴァンは止めようとするが、怖いので一緒には行かない〕。母は、果敢に中に入り、雄鶏の籠の中に隠れているボーンを見つけ出し、警官の目を盗んで 連れ出すことに成功する(3枚目の写真)。
  
  
  

バンに戻ったエヴァンは、開口一番、「ブツは売ってきたか?」と訊く〔こいつは、自分のことしか考えない〕。「1つ残っただけ」。「偉かったぞ」。バンはそっと抜け出す。エヴァンに見放されたと思っているボーンは後部座席の隅に縮こまっている。エヴァンが、「ハイタッチしよう」と声をかけても知らん振り。そのうちに、アリが今夜のエヴァンの態度に文句を言い、2人の間で大ゲンカが始まる。エヴァンは運転中なので、2度、対向車とぶつかりそうになり、道路から逸れて急停車する。エヴァンが嫌いになったボーンは、その隙にバンを逃げ出す(1枚目の写真)。母は、すぐに後を追う。ボーンが向かった先は、モービルホーム置き場。昼間に侵入した窓から(2枚目の写真)、雄鶏、自分の順に飛び込む。母の姿を見たボーンは、窓を開けて中に入れる。少し遅れて追って来たエヴァンは、「どこだ!?」と大声で呼ぶ。番犬が吠えかかるが、如何にもエヴァンらしく、犬を何度も乱暴に蹴る。そのうちに、オーナーのロバートが銃を持って駆けつけ、銃を撃って追い払う。母は、ボーンを抱いて窓辺に隠れるように横になる(3枚目の写真)。ここまでがパート1。
  
  
  

明るくなり、母は激しい振動で目が覚める。窓から覗くと家全体が、汽車に乗っているように動いている。ボーンも起き出してきて、窓辺で母と並ぶ。母は窓を開け、2人は顔を出してすがすがしい空気に当たる(1枚目の写真)〔ショートムービーの2枚目の写真と全く同じ〕。ボーンは、天井が異様に低い屋根裏に行き、仰向けになって足で天井に触ってみる(2枚目の写真)。「家」が停止したので、ボーンは雄鶏をジャンパーの胸の中に入れて外に出る。母も後からついていく(3枚目の写真、矢印は2人が寝ていたモービルホーム、右端は運んできたトレーラーの牽引車)。周辺には、居住者のいるモービルホームが並んでいる。
  
  
  

2人は、朝食をとりに近くの食堂に行く。この短いシーンでは、食べているボーンに向かって、母が、ストローの袋を吹いてボーンまで飛ばし、それを見たボーンがにっこりする(1枚目の写真)。その後すぐ、半分ほど料理を残したまま、母が、「『食い逃げ』するわよ」と言い、席を立つ〔全部食べてしまって席を立ち、会計をしないと怪しまれるからか? それにしても食べ残しが多すぎる〕。そして、レジに行き、トイレの鍵を借りる。ボーンはカウントを開始(2枚目の写真)。結構人が行き交っているので、「19」まで数えて席を立つ。一方、トイレでは、母がエヴァンにかかわるメモ等を便器に破棄して流し、その後、上着を脱いで、置いてあった石鹸で、腕、首、顔、髪を洗い、温風乾燥機で乾かす。食堂から外に出たボーンは、雑草の茂みの中に入って行く(3枚目の写真、矢印は雄鶏のトサカ)。見える範囲をきれいにした母は、食堂のテーブルに自分達の食べ残しがそのまま置いてあるのを見ると、借りた鍵は当然返さず、そのまま息子を探しに行く。
  
  
  

アリは、2人が乗ってきたモービルホームに戻る。家に触れていると、昨夜エヴァンに蹴られた犬が〔毛のあちこちに血が付いている〕、弱々しく吠える。それに気付いたロバートが、作業をしながら、「私の家を汚してくれたな。昨夜はよく眠れたといいが。警察を呼ぶ前に 立ち去れ」と声をかける。アリは、「ねえ、これみんなあなたのなの?」と訊く。「今の、聞いただろ?」(1枚目の写真)。そこにボーンが現れ、ケガをした犬を可愛がる(2枚目の写真)。ロバートは一目見てボーンが気に入る。アリは、「この おもちゃの家の中で、夜寝ていいのある?」と訊く。ロバートは、アリの悪びれない態度に、「いったいどこの星から来たんだ」と呆れる。次のシーンで、ボーンが昨夜いたモービルホームの中を歩いていると、洗浄用の道具一切を持ったロバートが、雑巾を投げて寄こし、糞を取れと命じる。ボーンは素直に床の糞を拭い始める(3枚目の写真、矢印の下に雑巾)。ロバートは、ボーンが可愛いので掃除させることで許すことにしたのだ。母は手伝いもせず、「モービルホームなんてバカげてるわよね。だって、プレイモービルのおもちゃの家みたいで、全部プラスチックで出来てるんでしょ」と失礼なことを平気で言う。ロバートは、「そうじゃない。他の家と同じように、ちゃんと(木で)作られてる」と(怒らずに)訂正する。「あたしの育ったトコじゃ、こんなウチ、ハリケーンで吹き飛ばされてたわ」。「私は、このうちの1軒に6年住んでるが、ひび一つ入らんぞ」。その間にも、ボーンに渡されたのは、タワシ、洗浄剤と増えていく。そして、ボーンは真面目に掃除していく。「きっと、あたしの理想のホームとは違うからかもね」。「これはハウス〔家〕だ。ホーム〔家庭〕は、その中で築くものだ」。そして、こう質問する。「君たちは、他人の家をハイジャックしてない時は、何してるんだ?」。「物を売ったり運んだりするの。動物なんかをね」。「合法的に?」。「動物によるわ」〔今まで雄鶏しか出てこなかったが…〕。その夜は、ボーンが汚れ落としを真面目にやったことで、ロバートが、自分の事務所に使っている極小のモービルホームのソファで2人を泊まらせる。ただし、雄鶏は中を汚すので外に出される。
  
  
  

翌朝、アリが起きるとボーンの姿はどこにもない。机の上に置いてあった1ドルをポケットに入れると、外に出て辺りを散策する。ボーンは、一軒のモービルホームの中で、そこに住んでいる同世代の子供たちとふざけて遊んでいた。そこに、車に乗ったロバートがやってきて、ホーンを鳴らす。「まだ、ここにいるのか?」。「起きたコトなの」。「真面目になれ。どうする気だ?」。アリには何もプランがない。町まで行くロバートに同乗するが、バスは嵐で止まっていて町から出られない。その夜は、モービルホームの居住者たちの焚き火で一緒に過す。何となく気持ちが和んでくる。そして、ロバートに、「この辺りで働ける仕事、あるかな?」と尋ねる。結果は、翌朝、すぐに出た。アリが寝ていると、顔の上に作業着が投げられ、「それを着ろ。10分後に外で会おう」と言われる。「10分だぞ。でないと失職だ」。アリは急いで支度をする。そして、ロバートに付いて職場へ。そこは、古くなったモービルホームの改装工事現場。ロバートは天井に分厚い断熱材を並べ、その下にプスチックのシートを敷き 木材用のホッチキスで天井の梁(はり)に固定する。最初の1回をやってみせると、後はアリに任す(1枚目の写真)。アリは初めてのマトモな仕事を楽しんでやっている。一方、ボーンは、親しくなった子のモービルホームで、TVゲームを楽しむ(2枚目の写真)。ロバートは、資材置き場に行くと、アリに壁紙を選ばせる〔その時の会話で、ボーンが走行中のトラックの荷台で産まれたことが分かる〕。その夜、極小のモービルホームで2晩目を過すことになった2人。ボーンは、「ここ、好きだよ」と、子供らしく遊べたことを喜ぶ(3枚目の写真)。アリもここを離れる気はなくなったように見える。
  
  
  

こうして平穏な日々が続く。ある日、ロバートは2人を牽引車に乗せてモービルホームの製造工場まで連れて行く。工場に足を踏み入れたアリは、その広大さにびっくりする(1枚目の写真)。工場の中では、ツーバイフォーの要領で様々なモービルホームが作られている。日本のプレハブ方式ではなく、ちゃんと木材を大量に使った構造だ〔外観からは想像がつかない〕。ボーンも興味深そうに見ている(2枚目の写真)。ロバートが取りに来たのは、主寝室以外に子供部屋もついた大型のモービルホーム。中を見た2人は、将来こんな家に住みたいと思う。ロバートはその家を牽引車に付けると、工場から運び出す(3枚目の写真)。その仕事が終わって数日後、ロバートとボーンが楽しくじゃれ合う光景が映る。彼は、ボーンが大好きなのだ。ここまでがパート2。ひと時の平安だ。
  
  
  

ある日、アリがモービルホームの近くを歩いていると、遠くにエヴァンが乗っていたようなバンが停まっているのに気付く(1枚目の写真、矢印)。アリは、心配になり、車まで走って行って確かめる。それは、確かに悪魔のエヴァンのバンだった。アリは直ちにボーンのところに行くと、「エヴァンのバンがある。あいつ、ここにいるわ。もし見たら、すぐに逃げて あたしに知らせるの。あいつに見られないように。話しかけちゃダメ。いい?」。そして、「ここ、好きでしょ? なら言う通りにできるわね?」と念を入れる(2枚目の写真)。夜になり、アリが内壁にペンキを塗っていると、その姿が、捜しにきたエヴァンによって見つかってしまう。エヴァンに見られていると分かったアリは、窓に鍵をかける。しかし、エヴァンは、窓に思い切り頭をぶつけ始め、「頭がつぶれるか、窓が割れるまで止めないぞ!」と脅す。アリは、仕方なく窓を開ける。土足のまま中に上がったエヴァンは、窓を閉めて鍵をかける。エヴァンがアリの頭に額をつけると(3枚目の写真)、アリは、気の弱い女性の相(さが)に負けてしまう。そして、遂にセックスへ… すべてが終わり、エヴァンは、「なぜ戻らなかった? なぜ去った?」と責める。さらに、「二度と会えないかと思って、頭が変になりそうだったぞ」と気を持たせ、「お前、ホントにここが好きなのか? マッチ箱みたいなトコに住むのが」と、自分のバン住まいを棚に上げてバカにする。それでもアリは、「ボーンとあたしは、ここが気に入ってる」と言う。すると、エヴァンはアリを酒場に連れて行く。そして、「やり直そう」「生まれ変わるぞ」と言い、初めて会ったフリで喜ばせ、無理矢理ダンスに誘う。
  
  
  

悪い男の手玉に取られた意志薄弱な女性の末路として、その夜、アリは、工場から運んできたばかりのモービルホームにエヴァンを連れ込んで3人で寝る(1枚目の写真、青い矢印はボーン、黄色の矢印はアリ)。早朝、ロバートは、この地区の不動産屋を連れて来る。「これは、もう売れたんだ。明日には配達する。跡地に好きな家を建てて賃貸すればいい」。そう言った後で、ロバートはなぜか不動産屋をモービルホームに入れる。土足のまま入った不動産屋は、ベッドで寝ている3人を見つけて、「ロバート、誰なんだ?」と文句をつける(2枚目の写真)。ロバートは、「町から来た従妹で、2・3日、泊まる場所が要ったので」と弁明するが、売却済みの商品に寝泊りさせるやり方に不動産屋は不信感を抱いて帰っていく。慌てて飛び起きて謝りに行ったアリに、ロバートは、「もし、こんどあいつを見たら、頭蓋骨を叩き割ってやる。君らは、どこでもいいから出て行け」と通告する(3枚目の写真)。それを聞いたアリは、自分のした愚かな行為に地団駄を踏む。
  
  
  

その夜、エヴァンは、バンの中で、アリに、「俺は お前たちと一緒に、俺たちの土地で暮らしたい」と言い出す。「そんなことできっこない」。「できないと思うか? あれを見ろ」〔モービルホームを指す〕。「でも、あたしたちのじゃない」。「なあ、俺は、お前とボーンがいないとダメだ。これはチャンスだ。お前は、鍵を取って来い。俺は食堂に行って待ってるから、駐車場で会おう。家が手に入り、ボーンと暮らせる。単純明快だろ? 雄鶏でもやった、それを家でやるだけだ。あいつは、家を10軒持ってる。一つなくなったって困るもんか。俺たちには何もないんだ」(1枚目の写真)〔自分勝手でめちゃめちゃな論理。しかも、モービルホームはアリに盗ませ、自分は食堂でのんびり待つだけ。こんなクズ男の言うことをなぜ鵜呑みにして、危険を冒すのか理解できない〕。アリは、ロバートの寝ている場所へ行く。「何しに来た」。「ごめんなさい、ロブ」。寝る場所がないと可哀相だと思ったのか、ロバートは横に寝かせてやる〔自分のベッドに寝せるのは、ロバートの性格からしておかしい。それに、ボーンはどこにいるのか分からないが、なぜ誰も心配しないのか?〕。アリが横になった先には、牽引車のキーが置いてある(2枚目の写真、矢印)。一方、前にアリとボーンが泊まっていた極小のモービルホームの中では、エヴァンが灯油もしくはガソリンを撒いている(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

まだ暗い早朝、アリは、キーを手に取ると、モービルホームの先端に行く。外では、「みんな起きて!」という声とともに、燃え上がる極小のモービルホームが見える。アリは、急いで外に出る(1枚目の写真)。ボーンは燃える家ではなく、昨日寝ていて叱られた方の家に寝ていた。アリは、牽引車に乗り込み、ボーンを助手席に乗せる〔牽引車には、まだ大型のモービルホームが連結されている/ロバートは今日、届けに行くと言っていた〕。そして、エンジンをかける。一方、ロバートは火事を知らせに来た住民の叫び声で目を覚ます〔エヴァンは、何のために火を点けたのか? そんなことをしなければ、ロバートは目を覚まさなかった。エヴァンのすることはすべて「バカ」の一語〕。飛び起きたロバートは、動き出したトレーラーに気付き、駆け寄って、「アリ、何するんだ?! 停めんか!!」とドアを開けるが、アリは、スピードを上げて振り落とす。ボーンは「ドコ行くのさ!!」と怒鳴るが(2枚目の写真)、アリも「お座り!!」と応酬する(3枚面の写真)。
  
  
  

モービルホームを牽引しての逃亡は、バカのエヴァンが考え、愚かなアリが信じたほど簡単なものではなかった。モービルホームの値段はどのくらいか? あるアメリカのサイトでは、寝室2、居間、キッチン、バス・トイレが付いて4万ドルとあった。それほどの価値のあるものを盗まれて、放置するはずがない。ロバートは、警察に通報せず、自分のトラックで追ってくる。そして、真後ろにぴったりと張り付き、警笛を何度も鳴らし、停まるよう要求する。アリは、田舎道にもかかわらずスピードを上げる。そして、行く手にY字路が見えた時、「つかまってて」とボーンに叫ぶと、急ブレーキをかけて左折する。正面から来た乗用車は慌ててブレーキを踏む。後を追おうとしたロバートのトラックは、乗用車と衝突する(1枚目の写真は、その直前のシーン)。湖沿いの道に出たアリは、ハンドル操作を誤り、車輪が路肩から外れ、牽引車が湖に転落する(2枚目の写真)。牽引車に続き、モービルホームも湖に落ちる。ボーンは、沈みゆくモービルホームの中に置いてきた雄鶏を助けに行くが、アリは引き戻し、2人とも無事に水面に浮上する(3枚目の写真、矢印はそれぞれの頭、右にほぼ沈んだモービルホーム)。
  
  
  

2人は、何とか斜面を這い上がり、道路脇まで登るが、寒さに震える(1枚目の写真)。2人は、全身ずぶ濡れのまま、歩き続けてバスセンターに辿り着く。アリの左の額からは血が流れているが、2人は構わずトイレに直行する。そして、最初にしたことは、温風乾燥機で頭髪を乾かすこと(2枚目の写真)。髪も乾くが、冷え切った体に温風は心地良い。それが済むと、上着を脱ぎ、絞ってから温風乾燥機に突っ込む。さらに、洗面の温水でかじかんだ手を温める。ボーンは、縫い針の入っている箱を持ち出す(3枚目の写真、矢印)。中には全財産も入っているが、5ドル紙幣の薄い束なのでたかが知れている。そして、ボーンは、かつてエヴァンが自分にしたように、母の傷口を縫う。
  
  
  

夜になると、疲れたボーンは、バスセンターのイスに横になって寝てしまう。アリは、このセンターには、子供を安全にバスまで連れて行く係員がいるのを見て、バス料金を書いたパンフレットを取りに行く。そして、朝。ボーンはパンケーキを食べている。母の前にトレイはない。母は、昔ボーンを身ごもっていた時に聞いたという話を始める(1・2枚目の写真)。それは、よくあるおとぎ話で、日本で言えば、落語の大岡裁きにもある。母親を主張する2人の女性に子供の手を両側から引かせ、子供が痛くて泣き出した時、手を放した方の女性が本当の母親という有名な話だ。違いは、裁くのが王様で、引っ張り合うのではなく、剣で真っつにしてしようとするのを止めた方が本当の母親。アリは、話の要点をこう説明する。「母親は、わが子を守るためなら何でもするものなの。たとえ、その結果、一緒にいられなくなってもね」。そして、「覚えておいてね」と付け加える。それだけ話すと、「疲れちゃった。あなたはパンケーキを食べてて。あたしはトイレに行って、顔でも洗ってくる」と言って席を立つ。その時、アリの目から涙が一筋流れ落ちる。ボーンは、ひょっとして『食い逃げ』かなと思い、カウントを始める。アリは、しばらく歩いて振り返ると、予定通り係員が来てボーンに話しかけるのが見える。係員は、「坊や、君のママが、切符を預けていった。バスがもうすぐ出る。2番ゲートだ。一緒に連れていってあげよう」と声をかける。この時、アリは、こっそりとバスセンターを出て行く。ボーンは、係員によって、バスの乗車口まで連れて行かれる(3枚目の写真、矢印は切符)。
  
  
  

係員は、切符を持ったボーンがバスのステップを上がると、帰っていった。ボーンは、いったい何が起きたんだろうと考える(1枚目の写真)。切符の裏を見ると、電話番号が書いてある〔ニューヨークの番号〕。一方、母は、駐車場を横切り、バスが出て行くのを確認すると、そのまま駐車場の端まで行き、雪を被った草むらに入って行く(2枚目の写真)。しばらく歩くと、突然何かが後ろから抱きつく(3枚目の写真)。顔は映らないが、ボーンがバスに乗らずに追って来たのだ。ここで映画は終る。母はどうしようとしていたのであろう? 自殺? 放浪? そして、全財産をバス代に使ってしまった今、2人はどうなるのだろう? ボーンの母想いの心が分かるだけに、物悲しいエンディングだ〔母は窃盗と器物破損、ロバートの事故の責任も問われ刑務所に収監され、ボーンは孤児院に行くことになるのかも〕
  
  
  

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